6. うねりと混乱 〜屋久島一人旅 2014〜

- テツ -

2014年11月02日 04:20


宮之浦岳を下り、焼野三又路を目指す。
この間、約0.5km。

とは言っても、山道は険しくて実際の距離よりも長く・遠く感じる。

登山道が濡れていて、下りは滑る危険がある為、ゆっくりと40分程かけて辿り着いた。
実は怪我は無かったものの、2度ほど足を滑らせてしまっていた。


近いようで遠い永田岳。

黒味岳、宮之浦岳登頂の勢いに任せて永田岳へ向かうべきかと直前まで迷っていた。

縦走コースを外れ、永田岳往復で2時間。
今夜の宿の新高塚小屋まで2時間半としても小屋への到着は陽が傾いて薄暗くなる午後4時30〜5時ごろという事になる。

濃い霧の中、30分以上も迷えば薄暗い道を歩く事になって遭難する可能性があるかもしれない。

それより何より、肝心の水が足りない。
この辺りに水場があるはずなのだが、見当たらないし、水の流れる音も聞こえない。

残念ながら今回は永田岳は諦める事に…
次回は絶対登ってやる!

あと1時間でも余裕があれば永田岳へ向かったかもしれない。
でも無理は禁物、と自分に言い聞かせる様に焼野三又路を後にした。



どれくらい歩いたのか分からなくなるくらい、長い一本道をひたすら前へ進む。

胸の辺りまで伸びた草の真ん中を延々と木製デッキが続いていて、踏み外さない様に気を付けながらゆっくりと…


夢か現実か分からなくなる様な幻想的な風景が続く…


そんな景色の中を歩き続けていた時の事だった、、


自分でもワケが分からないくらいに突然、胸の奥底にある感情の「うねり」みたいなモノが、まるで生き物のように胸を伝い、喉もとを這い上がり、鼻を抜け、眼の奥へと流れ着くのを感じたと思った次の瞬間、、

涙で視界が滲んでいた。

そしてほんの一瞬、僅かに気を緩めたその瞬間に、今までの楽しかった思い出だとか、悲しかった出来事だとか、次から次へと押し寄せる波のように頭の中に記憶が溢れ、一杯になったりして。


涙が溢れ出たワケは僕にもよく分からない。


でも突如襲われたその感覚ってのが、寂しさとか虚しさとか、そういった言葉に例えられる様な感覚では無くって、何か大きく温かなものに包まれている様な『安心感』に近いような感覚だった。

非日常的な風景を前に、少し混乱していたのかもしれない。



ふと、

屋久島空港のバス停で不思議なおばあちゃんが言ってたあの言葉を思い出した。

「あんたも島に呼ばれてきたんだね」…


もしかしたらこの島は、、

この山は、、

この風景を見せる為に
僕を屋久島へ呼び寄せたのだろうか。


いや、違う。


僕が見たかったんだ。ずっとこの景色をこの目で見たかったんだと思う。

言葉で説明するのは難しいけれども、感覚的にそう感じた。

そして僕自身、妙に納得していた。


気が付けば、ヤクザルの集団に囲まれていた。
大小合わせて10匹以上は居た。

ボスらしき大猿がこちらの様子をじっと見ている。
目を合わさない様に、ゆっくりと前へ進む。きっと大丈夫。


新高塚小屋へ続くデッキへと到着。ここから小屋まで約30m。


雨と霧の為、今夜は小屋で寝ることに。
既に6名ほどの登山者が中にいた。少し後で赤いザックの青年も到着した。


人の姿を見ると安心する。

結局、宮之浦岳を下ってからここまで誰とも会わず、独りで歩いていた事になる。

誰かと話したくてしょうがない。笑


午後3時30分。寝る場所を確保して落ち着いたら、コーヒーを一杯。

あ。食事の写真を撮るのを忘れてしまっていた。。


案の定、午後5時前から暗くなってきた。

疲れていたのか、午後6時30分にはシュラフに包まれてぐっすりと眠っていた。

時折、誰かの足音や話し声で目を覚ました気がする。

いや、そんな夢を見ただけかもしれない。



〜 続く 〜




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